大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)3825号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人斎藤素雄の上告趣意第一点について。

所論は、原判決は憲法三八条三項に違反すると主張する。しかし所論は、原審において主張せられず従ってその判断を経ない第一審の訴訟手続の違憲、或いは訴訟法違反(刑訴三一九条二項)をいうものであって、適法な上告理由に当らない。のみならず、憲法三八条三項には、裁判上の自白(公判においてなされた自白)を包含しないとすること当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一六八号同年七月二九日大法廷判決、集二巻九号一〇一二頁)であるところ、一審公判廷において被告人は自白しているのであるから、違憲の所論は採るをえない。

次に、刑訴三一九条二項の問題としても、一審判決が証拠とした証人小室亀夫の供述と大蔵技官長束光雄作成の犯則物件鑑定表とは優に被告人の自白の真実性を保障するに足る補強証拠ということができる。即ち、右証言によれば、同鑑定表は、単に抽象的一般的に同表記載の物件の関税額等はいくらであると鑑定したものでなく、同表は犯則物件鑑定台帳に基いて作成せられたものであり、同表記載のC・I・F価格は、倉移申告に基き(旧)関税定率法二条二項の規定に準拠して鑑定せられたものであること、換言すれば、当時同表記載の物件が関税未納のまま蔵置されていたとの事実を認めることができる。そしてこの事実は、被告人が関税未納物件を他に庫出して関税を逋脱したという自白を補強する証拠として十分である。従って所論の刑訴法違反も存在しない。

同第二点は、原判決の法令違反と判例違反とを主張する。しかし、その実質は原審において主張しない第一審判決の単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第三点の所論は、憲法違反の語もあるが、実質は単なる法令違反の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。〔本件私設保税倉庫に蔵置中の外国商品といえども絶対に課税の対象とならないものでないことは原判示のとおりであり、これを本件のように占領軍要員以外の者に販売する目的で庫出するばあいには、旧保税倉庫法六条により旧関税法の通関に関する規定が適用されるものと解すべきである。従って本件関税逋脱罪の成立を肯認する原判決に違法があるとすることはできない(昭和三一年(あ)三八四五号同三四年二月一三日第二小法廷決定参照)。〕

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例